はじめに
プリセールスのエンジニアとして働く中で、社内の営業メンバーやお客さんなど、さまざまな立場の人と日々関わっている。私は、社内の営業から見たらエンジニアロールの人という認識だろうし、お客さんからしたら私も営業メンバーの一員のように見えているだろう。
しかし、現職に就くまでは PC に向かってコードを書くのが仕事の中心で、顧客折衝はほぼ未経験だった。そのため、営業的なスキルを学ぶ機会がなく体系的に理解できていないという課題意識があった。
ある種「顧客折衝は場数や経験で身につけていくもの」という考え方もあり、それに同感する部分もあるが、ある程度知っておくべき知識などはあるだろうと調べたところ本書を見つけたので手にとって読んでみることにした。
結論、エンジニアロール特にプリセールスや SIer などで顧客折衝をするようなポジションの人はもちろん、ない人にもおすすめできる書籍だったので、学びがあった部分を自分なりにピックアップして紹介する。
ガンバリズムは悪
エンジニアロールの自分にとって最初に響いたのは、本書では「マジメに頑張っている自覚があるが成果が出ていない営業チームほど危険」と指摘していたところだ。
マネージャーからの指示や、上司からのアドバイスが抽象化された精神論として蔓延っている場合があると述べており、まさに上手くいっていない営業チームの印象通りだった。
「目標達成プレッシャー」「大量行動」「関係構築」という三種の神器に依存して、本質的に「なぜ売れるのか」を考えるプロセスが抜け落ちてしまっていることについて警鐘を鳴らしていた。
エンジニアという論理的な思考プロセスを重視する立場からすると、少なからず営業に対してそういうイメージがあったし、これまで自分の働いてきた会社でもそれっぽい雰囲気を感じたことはあった。
それを冒頭で否定しつつ、ではどうやって「マジメさ」以外の武器を増やしていくかと話を広げていっていることに興味を引いた。
お客さんが仮面を被ることを知っておく
お客さんは仮面を被る、すなわち営業に本音を隠して表面的なセリフで対応する。そんなことは考えてみたら自然と想像できるが、タイプとしてもパターンがあり下記のように整理されていた。
- はぐらかしの仮面
- 忙しさの仮面
- いきなりの仮面
- とにかく安くの仮面
- 検討しますの仮面
まずここでは、お客さんは防御反応として仮面を被るという前提を理解しておくこと。その上でコミュニケーションすることが重要だと気づかされた。
振り返ってみれば、上記のような反応をされた経験したことがあると思い返すと同時に、その裏にあるお客さんの意図をちゃんと深堀りできていなかったなと思う。本書には、仮面をはずすことが何よりも優先事項で、さらに仮面さえ外れたらその後のプロセスはスムーズに進み出すと語られていて、いかに重要なポイントなのかと身を持って実感した。
以降 3 章〜 7 章にかけて、それぞれの仮面を外すための行動や気をつけるべきことが書かれているので紹介する。
はぐらかしには臆せず質問する
まず、はぐらかしの仮面についてである。
お客さんがはぐらかすと言う背景には、「情報を渡すことで自分に不利になるのでは」という心理的なデメリットがある。
確認すべき重要なことは、BANT に追加で C の Competition、H の Human Resource の BANTCH や、深掘りの質問などが挙げられていた。
特に「個人的な意見としてはいかがですか?」や「〇〇さんとしてどうですか?」などの枕詞を使って発言のハードルを下げたり、「あまりお困りではないですよね」などの核心に迫る質問で愚痴から課題を引き出したり、などはすぐに使えるテクニックとして有益だった。
一方で、何を聞いてもはぐらかされることは往々にしてあるので、挙げられている質問を持ってしても仮面が外れない場合はの対応は難しいのでは思った。
質問の枕詞や深掘りの仕方は、以前ブログでも紹介した「頭がいい人が話す前に考えていること」で詳しく語られているのでこちらもおすすめする。
当たり前をちゃんとやる
次は、忙しさの仮面についてだが、お客さんは限られた時間の中で、多くの営業と向き合っている。だからこそ信頼できる相手かどうかを早期に見極めようとする。
そこで、優秀な営業であることを示すことが差別化になる。
書いてあったことは、クイックレスポンスや事前準備を怠らないこと、費用対効果など当たり前のことが多かったが、改めてそれらを基本に忠実に行うことの重要性を再認識した。
この「基本動作の徹底」という考え方は、ビジネスマン全般に言えることじゃないだろうか。
下記の書籍「コンサル1年目の教科書」では、資料の作り方・準備の仕方・依頼の受け方など、当たり前の精度を上げるだけで仕事の質は大きく変わると繰り返し語られている。
営業やプリセールスの文脈でもまさに同じで、目立つテクニックよりも、相手に対する誠実さや準備の丁寧さが信頼に直結するという点で共通していると感じた。
提案もアジャイルに
続いてはいきなりの仮面についての章。
先程の忙しさの仮面に近い話になるが、いきなりリクエストをもらうこともある。その際に想定しなければならないのが競合の存在だ。
もちろんレスポンスやアウトプットもスピード感が求められるケースではあるが、私の感覚としてはアジャイル開発に似たものを感じた。例えば、最初は質よりスピードを意識してコミュニケーションしながら提案の質を高めていくであったり、コンタクト頻度を高め、状況に応じた方法(対面、オンライン、電話など)で商談を進めていくことなどで仮面を外すアクションとして書かれていた。
値段以外の判断基準をクリアにする
とにかく安くの仮面について、コスト面はやはり避けては通れない要素である。
それ故、コスト以外の判断基準だとどういう要素があるのか洗い出せているか、自社の価値を理解してもらっているかがポイントだと述べられている。
判断基準を知るには、提案前の要件整理が鍵になる。そして、**要件整理におけるポイントは「網羅性」、「具体化」、「優先順位」**だ。
これは、私もプリセールスをやっている中で要件整理が重要なことは分かっていたが、分かりやすく言語化されていて非常に勉強になった。
お客さんが答えやすいように助け舟を出す
最後は検討しますの仮面についてである。お客さんの反応としては、顧客折衝をやっていて最もよくあるケースではないだろうか。
こちらが「気になる点はありませんか?」と聞いて、お客さんが「社内で検討します」という流れは私も振り返ってみて心当たりがあった。それには商談終盤の 10 カ条が挙げられていて順番にする進めることで検討を前に進めることになると言う。
- 今ここに時間を使っている理由
- 提案への感触
- 進め方の意向
- BANTCH 情報
- 社内における次のアクション
- 検討上のネックや判断基準
- ネクストステップ
- 当社へのリクエスト
- こちらの熱意
- 直後のコミュニーケーション許可
いきなり反応を伺うより順序立てて思考の整理を一緒に行っていくことで不満を解消できる。
またお客さんのタイプを捉えることも重要で、本書では 3 つのタイプがあると言われていた。
- 論理タイプ
- 感情タイプ
- 政治タイプ
タイプに応じてこちら側が取るアクションや発言を変えていくことでスムーズに提案を進めていく事ができると述べられていた。個人的には、一人がいずれかのタイプに分類できることもあれば、時によってタイプが変わる人もお客さんの中にはいる気がするのでタイミングに応じて使い分けるのが良いのではないかと思った。
まとめ
エンジニア目線で読んでみても新しい発見や日々頭で感じていたことが言語化されていて非常に勉強になった。
顧客折衝に不安がある人や、営業スキルを体系的に学びたい人にとって、本書は大きなヒントになるはずだ。特にプリセールスや SIer で働いている人は強くおすすめしたい。
参考