書籍「営業の科学」を読んだ

はじめに

プリセールスのエンジニアとして働く中で、社内の営業メンバーやお客さんなど、さまざまな立場の人と日々関わっている。私は、社内の営業から見たらエンジニアロールの人という認識だろうし、お客さんからしたら私も営業メンバーの一員のように見えているだろう。

しかし、現職に就くまでは PC に向かってコードを書くのが仕事の中心で、顧客折衝はほぼ未経験だった。そのため、営業的なスキルを学ぶ機会がなく体系的に理解できていないという課題意識があった。

ある種「顧客折衝は場数や経験で身につけていくもの」という考え方もあり、それに同感する部分もあるが、ある程度知っておくべき知識などはあるだろうと調べたところ本書を見つけたので手にとって読んでみることにした。

営業の科学 セールスにはびこるムダな努力・根拠なき指導を一掃する
営業1万人・お客様1万人=2万人調査による膨大な検証分析をもとに 12年間・営業4万人を指導してきた、現場に根差す 実践的知見を持つ著者が 「お客様の本音がわからない」という悩みで直面する 各プロセスの「壁」を乗り越えるノウハウを 1冊に凝縮。 「成果を出す営業のメカニズム」を データとロジックで裏づけ 「誰もが使える武器」として体系化。 「がんばっているのに売れない。なぜ?」 そんな思いが頭をよぎったことのある方に、ぜひ読んでいただきたくこの本を書きました。 いわゆる「営業本」の多くは、「私はこんな努力をして売れるようになった」というストーリーが書かれています。一方、「自分もそれなりにがんばっているのに、結果が出ない。努力が足りないのだろうか?」と悩む方もいらっしゃるのではないでしょうか。 本書は、4万人以上の営業を支援してきた筆者が、営業1 万人+お客様1 万人(合計2 万人)にわたる調査を踏まえ、営業における「急所」を科学的に解き明かした本です。 「急所」を外してしまうと、残念ながら、どんなに努力をしても報われません。しかし、「急所」を押さえたアクション(=「武器」) が身につくと、努力の効率が驚くほど上がり、アポイントや受注が増えていきます。 その急所に対する「武器」を、本書では「ガンバリズムの罠」と「購買者の仮面」というキーワードを用いて、できるだけわかりやすく、すぐに実践しやすい形でまとめました。 営業活動における「急所」とは、「購買者の仮面」の裏にある素顔(=本音)であり、急所を捉えるためには、「ガンバリズムの罠」にハマらないよう注意しながら、お客様が自ら本音をさらけ出したくなる提案活動(=「武器」)が必要です。 本書では、この「武器」を効果的にお使いいただけるよう、結論だけお伝えするのではなく、2万人以上に尋ねたデータの中から、重要なものを抜粋して詳しく解説しています。 「よくあるお客様の表面的なセリフ」に振り回されず、裏にある本音を捉えるプロセスを一緒に考えながら解き進めるように書きました。 「がんばり方を変えたら受注がこんなに増えた!!」こんな喜びの発見がたくさん生まれて、あなたのチームの努力が報われるようになったら、著者としてこの上ない喜びです。 続きを読む
営業の科学 セールスにはびこるムダな努力・根拠なき指導を一掃する  favicon amazon.co.jp
営業の科学 セールスにはびこるムダな努力・根拠なき指導を一掃する

結論、エンジニアロール特にプリセールスや SIer などで顧客折衝をするようなポジションの人はもちろん、ない人にもおすすめできる書籍だったので、学びがあった部分を自分なりにピックアップして紹介する。

ガンバリズムは悪

エンジニアロールの自分にとって最初に響いたのは、本書では「マジメに頑張っている自覚があるが成果が出ていない営業チームほど危険」と指摘していたところだ。

マネージャーからの指示や、上司からのアドバイスが抽象化された精神論として蔓延っている場合があると述べており、まさに上手くいっていない営業チームの印象通りだった。

「目標達成プレッシャー」「大量行動」「関係構築」という三種の神器に依存して、本質的に「なぜ売れるのか」を考えるプロセスが抜け落ちてしまっていることについて警鐘を鳴らしていた。

エンジニアという論理的な思考プロセスを重視する立場からすると、少なからず営業に対してそういうイメージがあったし、これまで自分の働いてきた会社でもそれっぽい雰囲気を感じたことはあった。

それを冒頭で否定しつつ、ではどうやって「マジメさ」以外の武器を増やしていくかと話を広げていっていることに興味を引いた。

お客さんが仮面を被ることを知っておく

お客さんは仮面を被る、すなわち営業に本音を隠して表面的なセリフで対応する。そんなことは考えてみたら自然と想像できるが、タイプとしてもパターンがあり下記のように整理されていた。

  • はぐらかしの仮面
  • 忙しさの仮面
  • いきなりの仮面
  • とにかく安くの仮面
  • 検討しますの仮面

まずここでは、お客さんは防御反応として仮面を被るという前提を理解しておくこと。その上でコミュニケーションすることが重要だと気づかされた。

振り返ってみれば、上記のような反応をされた経験したことがあると思い返すと同時に、その裏にあるお客さんの意図をちゃんと深堀りできていなかったなと思う。本書には、仮面をはずすことが何よりも優先事項で、さらに仮面さえ外れたらその後のプロセスはスムーズに進み出すと語られていて、いかに重要なポイントなのかと身を持って実感した。

以降 3 章〜 7 章にかけて、それぞれの仮面を外すための行動や気をつけるべきことが書かれているので紹介する。

はぐらかしには臆せず質問する

まず、はぐらかしの仮面についてである。

お客さんがはぐらかすと言う背景には、「情報を渡すことで自分に不利になるのでは」という心理的なデメリットがある。

確認すべき重要なことは、BANT に追加で C の Competition、H の Human Resource の BANTCH や、深掘りの質問などが挙げられていた。

特に「個人的な意見としてはいかがですか?」や「〇〇さんとしてどうですか?」などの枕詞を使って発言のハードルを下げたり、「あまりお困りではないですよね」などの核心に迫る質問で愚痴から課題を引き出したり、などはすぐに使えるテクニックとして有益だった。

一方で、何を聞いてもはぐらかされることは往々にしてあるので、挙げられている質問を持ってしても仮面が外れない場合はの対応は難しいのでは思った。

質問の枕詞や深掘りの仕方は、以前ブログでも紹介した「頭がいい人が話す前に考えていること」で詳しく語られているのでこちらもおすすめする。

頭のいい人が話す前に考えていること
【★売れに売れて28万部突破!!】 ◎amazonランキング1位!(ビジネスライフ/労働時間・休暇) ◎「ちゃんと考える」の“ちゃんと”って何だ!? ◎AI時代に淘汰されない!「知性」と「コミュニケーション」の原理原則にして、奥義を大公開! ◎ 口下手な著者がコンサル22年で得た知見を1冊に凝縮!◎頭のよさは、話す前にどれだけ“立ち止まれるか”で決まります。 ◎「話し方」よりも大切な「思考の質の高め方」 どれだけ考えても、伝わらなければ意味がない。でも、話し方のスキルだけでは、人の心は動かせない。コンサルで叩き込まれたのは、人の心を動かす、思考の「質」の高め方でした。本書は「頭のいい人」が何をどう考えているかを明確にし、誰でも思考の質を高め、「頭のいい人」になれる方法を伝授します。 さあ、手に入れよう。あなたが本来持っている考える力を自動発火させ、「信頼」と「知性」を同時に得ことができる黄金法則を。
頭のいい人が話す前に考えていること favicon amazon.co.jp
頭のいい人が話す前に考えていること

当たり前をちゃんとやる

次は、忙しさの仮面についてだが、お客さんは限られた時間の中で、多くの営業と向き合っている。だからこそ信頼できる相手かどうかを早期に見極めようとする

そこで、優秀な営業であることを示すことが差別化になる。

書いてあったことは、クイックレスポンスや事前準備を怠らないこと、費用対効果など当たり前のことが多かったが、改めてそれらを基本に忠実に行うことの重要性を再認識した。

この「基本動作の徹底」という考え方は、ビジネスマン全般に言えることじゃないだろうか。

下記の書籍「コンサル1年目の教科書」では、資料の作り方・準備の仕方・依頼の受け方など、当たり前の精度を上げるだけで仕事の質は大きく変わると繰り返し語られている。

コンサル一年目が学ぶこと 新人・就活生からベテラン社員まで一生役立つ究極のベーシックスキル30選
新人からベテランまで今日から使える、外資系コンサル出身者が 必ず身に付けているベーシックスキルを30個に厳選! 本書は、コンサルタンティング会社に勤める人のためだけの本ではありません。 職業・業界を問わず、 15年後にも役立つ普遍的なスキルを、 社会人一年目で学んだときの基礎的なレベルから理解するための本です。 では、なぜ「コンサル一年目が学ぶこと」というタイトルにしたのか。 外資系のコンサルティング会社の出身者には、業界や職種を問わず、さまざまな場所で活躍する人が多くいます。 ということは、彼ら、彼女らが、コンサルタント時代に学んだことのなかに、 業界、職種を問わず、ひろく活躍できる、普遍的な仕事力が含まれていたという仮説が成り立ちます。 本書では、わたし自身の経験に加え、各界で活躍する元コンサルタントの方に取材し、その仕事術のうち今日から使えるスキルを、30個に厳選しました。 【目次】 第1章 コンサル流話す技術 01 結論から話す 02 Talk Straight 端的に話す 03 数字というファクトで語る etc 第2章 コンサル流思考術 10 「考え方を考える」という考え方 11 ロジックツリーを使いこなす 12 雲雨傘 提案の基本 etc 第3章 コンサル流デスクワーク術 16 文書作成の基本、議事録書きをマスターする 17 最強パワポ資料作成術 18 エクセル、パワーポイントは、作成スピードが勝負 etc 第4章 コンサル流ビジネスマインド 23 ヴァリューを出す 24 喋らないなら会議に出るな 25 「時間はお金」と認識する etc 続きを読む
コンサル一年目が学ぶこと 新人・就活生からベテラン社員まで一生役立つ究極のベーシックスキル30選  favicon amazon.co.jp
コンサル一年目が学ぶこと 新人・就活生からベテラン社員まで一生役立つ究極のベーシックスキル30選

営業やプリセールスの文脈でもまさに同じで、目立つテクニックよりも、相手に対する誠実さや準備の丁寧さが信頼に直結するという点で共通していると感じた。

提案もアジャイルに

続いてはいきなりの仮面についての章。

先程の忙しさの仮面に近い話になるが、いきなりリクエストをもらうこともある。その際に想定しなければならないのが競合の存在だ。

もちろんレスポンスやアウトプットもスピード感が求められるケースではあるが、私の感覚としてはアジャイル開発に似たものを感じた。例えば、最初は質よりスピードを意識してコミュニケーションしながら提案の質を高めていくであったり、コンタクト頻度を高め、状況に応じた方法(対面、オンライン、電話など)で商談を進めていくことなどで仮面を外すアクションとして書かれていた。

値段以外の判断基準をクリアにする

とにかく安くの仮面について、コスト面はやはり避けては通れない要素である。

それ故、コスト以外の判断基準だとどういう要素があるのか洗い出せているか、自社の価値を理解してもらっているかがポイントだと述べられている。

判断基準を知るには、提案前の要件整理が鍵になる。そして、**要件整理におけるポイントは「網羅性」、「具体化」、「優先順位」**だ。

これは、私もプリセールスをやっている中で要件整理が重要なことは分かっていたが、分かりやすく言語化されていて非常に勉強になった。

お客さんが答えやすいように助け舟を出す

最後は検討しますの仮面についてである。お客さんの反応としては、顧客折衝をやっていて最もよくあるケースではないだろうか。

こちらが「気になる点はありませんか?」と聞いて、お客さんが「社内で検討します」という流れは私も振り返ってみて心当たりがあった。それには商談終盤の 10 カ条が挙げられていて順番にする進めることで検討を前に進めることになると言う。

  1. 今ここに時間を使っている理由
  2. 提案への感触
  3. 進め方の意向
  4. BANTCH 情報
  5. 社内における次のアクション
  6. 検討上のネックや判断基準
  7. ネクストステップ
  8. 当社へのリクエスト
  9. こちらの熱意
  10. 直後のコミュニーケーション許可

いきなり反応を伺うより順序立てて思考の整理を一緒に行っていくことで不満を解消できる。

またお客さんのタイプを捉えることも重要で、本書では 3 つのタイプがあると言われていた。

  • 論理タイプ
  • 感情タイプ
  • 政治タイプ

タイプに応じてこちら側が取るアクションや発言を変えていくことでスムーズに提案を進めていく事ができると述べられていた。個人的には、一人がいずれかのタイプに分類できることもあれば、時によってタイプが変わる人もお客さんの中にはいる気がするのでタイミングに応じて使い分けるのが良いのではないかと思った。

まとめ

エンジニア目線で読んでみても新しい発見や日々頭で感じていたことが言語化されていて非常に勉強になった。

顧客折衝に不安がある人や、営業スキルを体系的に学びたい人にとって、本書は大きなヒントになるはずだ。特にプリセールスや SIer で働いている人は強くおすすめしたい。

参考

営業の科学 セールスにはびこるムダな努力・根拠なき指導を一掃する
営業1万人・お客様1万人=2万人調査による膨大な検証分析をもとに 12年間・営業4万人を指導してきた、現場に根差す 実践的知見を持つ著者が 「お客様の本音がわからない」という悩みで直面する 各プロセスの「壁」を乗り越えるノウハウを 1冊に凝縮。 「成果を出す営業のメカニズム」を データとロジックで裏づけ 「誰もが使える武器」として体系化。 「がんばっているのに売れない。なぜ?」 そんな思いが頭をよぎったことのある方に、ぜひ読んでいただきたくこの本を書きました。 いわゆる「営業本」の多くは、「私はこんな努力をして売れるようになった」というストーリーが書かれています。一方、「自分もそれなりにがんばっているのに、結果が出ない。努力が足りないのだろうか?」と悩む方もいらっしゃるのではないでしょうか。 本書は、4万人以上の営業を支援してきた筆者が、営業1 万人+お客様1 万人(合計2 万人)にわたる調査を踏まえ、営業における「急所」を科学的に解き明かした本です。 「急所」を外してしまうと、残念ながら、どんなに努力をしても報われません。しかし、「急所」を押さえたアクション(=「武器」) が身につくと、努力の効率が驚くほど上がり、アポイントや受注が増えていきます。 その急所に対する「武器」を、本書では「ガンバリズムの罠」と「購買者の仮面」というキーワードを用いて、できるだけわかりやすく、すぐに実践しやすい形でまとめました。 営業活動における「急所」とは、「購買者の仮面」の裏にある素顔(=本音)であり、急所を捉えるためには、「ガンバリズムの罠」にハマらないよう注意しながら、お客様が自ら本音をさらけ出したくなる提案活動(=「武器」)が必要です。 本書では、この「武器」を効果的にお使いいただけるよう、結論だけお伝えするのではなく、2万人以上に尋ねたデータの中から、重要なものを抜粋して詳しく解説しています。 「よくあるお客様の表面的なセリフ」に振り回されず、裏にある本音を捉えるプロセスを一緒に考えながら解き進めるように書きました。 「がんばり方を変えたら受注がこんなに増えた!!」こんな喜びの発見がたくさん生まれて、あなたのチームの努力が報われるようになったら、著者としてこの上ない喜びです。 続きを読む
営業の科学 セールスにはびこるムダな努力・根拠なき指導を一掃する  favicon amazon.co.jp
営業の科学 セールスにはびこるムダな努力・根拠なき指導を一掃する
若手エンジニア必読 技術力とキャリアを伸ばすおすすめ書籍10選
将来エンジニアを目指している大学・大学院に進学した人や、この春からエンジニアとしてキャリアをスタートした新社会人向けにおすすめの本を個人的な主観たっぷりで紹介する
若手エンジニア必読 技術力とキャリアを伸ばすおすすめ書籍10選 favicon egashira.dev
若手エンジニア必読 技術力とキャリアを伸ばすおすすめ書籍10選
書籍「頭のいい人が話す前に考えていること」を読んだ
一年前くらいに読んだ本書をたまたま手にとって再読したので感想などメモ
書籍「頭のいい人が話す前に考えていること」を読んだ favicon egashira.dev
書籍「頭のいい人が話す前に考えていること」を読んだ

関連記事